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1. 紺陽

 榮は、一人で東京に行く事は出来なかった。
 そこで、流石は蒼軌と榮を連れて、一旦、東京の晶の元を訪ねた。
 皐月と合流するのは明日になる。
「やぁ、榮くん。相変わらず元気そうですね、父さん」
 晶は、流石の次男…つまり、榮の叔父にあたる。
「仕事が何件か入っていてな…しばらく留守にする。
 榮をお前に預けようかと思ったのだが、皐月の奴が預かってくれる事になった。
 明日、皐月の所へ届けてやってくれないか?」
「ええ、構いませんけど…。あの、上がらないの?」
 晶は玄関で留まる流石を訝しげに見た。
「残念だが、仕事は今夜からでな…また、機会があれば寄らせてもらう…」
 流石は蒼軌を呼び寄せると出て行ってしまった。
 晶はやれやれとため息をついた。
「仕事熱心なのは血ですかね…」
 晶もサラリーマンの傍ら、『退魔士』の仕事も受けていた。
 それも、『式鬼使い』である以上果たすべき義務だからだ。
 しかし、兄・輝はカメラマンとしての道を選び、『式鬼』を捨てた。
 流石も仕事に復帰したのは輝の事で責任を感じているからかもしれない。
「紺陽!明日から…しばらくの間、、榮の傍に居てやってくれる?」
「はい、主殿」
 紺陽という名の式鬼が嬉しそうに返事をする。

 出発の日、榮は自分より少し年上に見える髪の長い少年(或いは少女?)を
 引き連れて待ち合わせ場所にやってきた。
「あ、榮ちゃんや〜!久し振りやなぁ!」
 満面の笑みで迎えてくれたのは、
 数年前、その力故に一族に復帰した藍澤家の式鬼使い。
 『赤家』と関わりを持ち、そこでの修行を受けた少年は、
 出身が東京のくせにすっかり関西ナイズされてしまっている。
 榮は、この年上の少年・藍澤実行の事を兄のように慕っている。
「実行兄!」
「元気してたか〜?」
「うん。実行兄こそ、元気…どうしたの?」
 榮は実行がため息をついたのを見逃さなかった。
「あ〜、うん。実は、俺、行けへんかもしれんねん」
「えっ?」
「仕事がな、仰山あって…まだ片付けきれてへんのよ」
「それ、彩さんに頼まれたの?」
 無機的な、それでいて透る声。
「巽ちゃん!」
「こんにちは…」
 巽と呼ばれた少女は、その大きな目で実行を見つめた。
「あ〜、やっぱわかる?そうなんよ。
 彩に頼まれたら…この俺が、断るはず…無いやろ?」
「……実行兄、顔がだらしない」
 榮は呆れる。
 そう、実行には弱点がある。
 それは、『彩』と呼ばれる人物――『赤家』の当主だ。
 実行にとって、『彩』は『絶対』の存在なのだ。
「とにかく、俺と新大阪まで行って、
 それから皐月さんの会社の人が迎えに来てくれるから…
 まぁ、俺もな、なるべく早く仕事片付けてそっちに行けるようにするから。
 いいか?」
「うん」
 榮が返事をすると、その後ろに立っていた少年(?)が張りきった表情で、
「大丈夫です!私も付いてますし!」
 と、答えた。
「こ…紺陽?…ええっと、あ〜、碧泉は居る?」
 実行は、キョロキョロと辺りを見回す。
「当然ですね。巽が行くなら、私も付いて行くに決まっているでしょう?」
 すると、突然、碧の髪を肩の所で綺麗に切り揃えられた青年が現れた。
 じろりと実行と榮を睨みつけた。
「碧泉、睨んじゃダメ」
「はい、巽…」
 巽の言葉に表情を柔らかくする。
「碧泉がいるなら大丈夫だろ?」
「えっ?あの、私も居るのですが…」
「紺陽には巽は預けられん!」
 辛らつな言葉に紺陽と呼ばれる少年はがっくりと肩を落とした。
 紺陽も碧泉も『青家』の式鬼である。
 だが、式鬼同士、必ずしも仲が良いという訳ではなかった。
「実行兄、藍華は?」
 藍華も『青家』の式鬼だ。
「藍華?居るよ?ここにな…」
 そうして見せてくれたのは一本の小刀だった。
「目立つとあかんから《武器化》させてん。なんなら、呼び起こそか?」
「いや、いいっ!」
 榮は力の限り遠慮した。藍華のことが榮は苦手なのだ。
 それは、藍華の前の主が父の輝である事も影響している。
「そぉか?まぁ、ええわ。みんな揃ったし、そろそろ行こか?」
 実行の言葉に巽が頷く。さりげなくその手を巽が握る。
 心なしか巽の表情が嬉しそうに見え、榮はムカッとした。
 だけど、その後ろにいる碧泉の、張り付いたように冷ややかな表情を見て、
 冷静さを取り戻した。

 予定通り、新大阪で実行と別れた。
 皐月の会社の人、『瑞葵くん』が迎えに来てくれた。
 人の良さそうな、地味で苦労性といった感じの『瑞葵くん』の本名は、
 香原瑞葵といった。
 皐月の秘書だが、主に雑用を押し付けられる係だ。
「榮くんと巽ちゃんだね?今から僕と一緒に島の方まで行こう。
 羽島まで船は面倒だからって、ヘリで行く事になってる。いいかな?」
「うん。佳那ちゃんは?」
「佳那さんはもう、とっくに行かれてますよ。
 仕事もありますからね…社長も一緒です」
「ふ〜ん」
 佳那は、皐月のブランドの子供服のモデルも務めている。
 撮影の為にスタッフ達も同行して、随分な人数で行くことになったので
 敢えて榮たちより先に向かったそうだ。(こちらはさすがに船で行ったそうだが。)
「ねぇ、やっぱり紺陽と碧泉の事、瑞葵くんには見えてないんだね?」
「《隠形の術》が掛かってるもの…」
 そう、式鬼の二匹は術で見えないようにしてあった。
 式鬼を扱う者か、かなり強い霊力を持った人間にしか、
 この術を通り越して彼らの姿を見ることは出来ない。

 ヘリコプターで向った一行は、すぐに目的地に着いた。
 そこは瀬戸内海に浮かぶ島の一つで、羽島と呼ばれている。
 ダイビングスポットがあるのか、若者も多く訪れていた。
 とにもかくにも小さな島には変わりない。
「いらっしゃい、榮くんに巽ちゃん。紹介するわ。この子が私の子供の佳那よ…」
 皐月が紹介したのは、金髪に蒼い瞳の少女…。
「…君が、佳那ちゃん?」
「YES!マイ・ネイム…Oh、間違えまシタ。僕の名前、紺野佳那。ヨロシクね♪」
「俺、蒼生榮!」
「碧河巽…よろしく」
 佳那は笑顔で握手を求めてくる。そして、何故かある一点を見つめた。
「Who?…アナタは、どなた、デスか?」
「えっ?!もしかして、見えてる?」
「Why?」
「碧泉、出ても良いわよ」
 スーッと碧泉が現れる。佳那はびっくりしている。
「どうも。私の名は碧泉…巽を護る者だ」
 碧泉は佳那を見下したように見た。
「マジック?すごいデスね、巽」
「えっ?見えてたんじゃないの?碧泉の事!」
「What?NO、違いマス。僕は、この人見えてませんでシタよ?」
 つまり、見えていたのは碧泉ではなく…。
「紺陽〜!お前、ちゃんと術かけろよ!」
「違います!ちゃんとかけてますよ。今でも!」
「あら、紺陽が居るの?」
 皐月の言葉に納得がいった。
 つまりは、佳那自体が原因なのだ。
 皐月だって十分霊力はある。
 それでも見えない紺陽が見えるというのは…。
「紺…陽?キミ、紺陽といいマスか?」
 佳那は紺陽に手を差し出す。
 紺陽は恐る恐る手を差し出し、握手した。
 その瞬間、青い光が弾け飛ぶのを榮は見た。
「あ…主殿…。貴方が、私の新しい主殿なのですね?」
 紺陽は感極まった、泣き笑いのような表情をしている。
 主を式鬼は選ぶ。
 しかし、この場合は、式鬼の方が主に引き寄せられたようだ。
 こんなケースは珍しい。
「主殿?何デスか?それは…」
「ご主人様の事。佳那ちゃんはコイツの、紺陽の主人で、紺陽はキミの家来って訳!」
「アイム…ユア・マスター?」
「はい!よろしくお願いします!」
 こうして、新しい『式鬼使い』が『青家』に誕生したのである。

はじまりの夏・2へ続く。